読解練習:この子の未来に、私は何を壊してしまったのか【Lv.15|番外編:親の視点】
子どもが学校に行かなくなって、1年がたった。
いま思えば、あのときのひとことが決定的だったのかもしれない。
「がんばれば、また友達とうまくやれるでしょ?」
その一言が、どれだけこの子を追いつめたのか。
私は、自分の声がこの子を壊したんじゃないかと、今も思ってしまう。
たくさんの言葉をかけてきた。でも、何も聞こえていなかったのは、私のほうだったのかもしれない。
「ちゃんとごはん食べてね」「夜は早く寝ようね」——全部、正しいことのようでいて、全部、この子の今を無視していた気がする。
一緒に笑うことが減って、目を合わせるのがこわくなった時期もあった。
でも最近、夜中にふと声をかけられた。「お母さん、これ見て」と言って、自分で描いた絵を見せてくれた。
美術の教科書で見たような構図に、こまかい線が重なっていた。
その絵の中に、この1年間、言葉にできなかったものが全部つまっている気がした。
でもやっぱり私は考えてしまう。
——この子の未来に、私は何を壊してしまったのか。
——あのとき、ちがう言葉を選べていたら、何か変わっていただろうか。
——そしていま、私は何を守ろうとしているのか。
答えはないのかもしれない。
でも問い続けるしかない。
「あなたはあなたのままでいい」と言いながら、
「ほんとうにそう思えているか」と、自分に問いかけ続けている。
◆ 問題
- 筆者は、自分の言葉や行動についてどのように受け止めており、それがどんな苦しみにつながっていますか?
- 子どもが描いた絵を見て、筆者の中にどんな気づきや感情が生まれましたか?
- 「あなたはあなたのままでいい」と言うことと、「ほんとうにそう思う」ことのあいだには、どんな違いがあると考えますか?
- あなたが筆者の立場だったとしたら、どのように自分自身と向き合っていきたいと思いますか?
◆ ポイント
- 「親としての罪悪感」が、子どもとの関係や見方にどう影響するかを見つめる。
- 反省と自責の違い、そしてそこから回復する「気づきの契機」を考える。
- 「正しさ」ではなく、「まなざし」や「語られない想い」に注目する哲学的読解。