◆ うさぎとカメは、子どもの“成長の物語”
「ウサギとカメ」は、短くて覚えやすく、でも深く考えさせられるイソップ寓話の名作です。
速く走れるウサギと、のろのろだけど真面目なカメ。
この2匹がかけっこをするという、シンプルなお話ですが――
「ウサギはなんで途中で寝ちゃったんだろう?」
「カメはどうしてあきらめなかったの?」
「どっちがえらかったと思う?」
こんなふうに、物語の途中でちょっとした質問をはさむことで、
子どもたちの中で物語が“自分ごと”として動きはじめます。
◆ なぜ質問が大事なのか?──心と思考に火をつける5つの力
質問しながら絵本を読むことで、自然と子どもの内側に眠っている力が引き出されていきます。
「ウサギとカメ」は、特に次の5つの力を伸ばすのにぴったりの教材です。
育つ力 | 内容 | ウサギとカメでの例 |
---|---|---|
読解力 | 登場人物の特徴や出来事を理解する | 「先に走ったのはだれ?」 |
思考力 | 物事の因果関係を考える力 | 「どうしてカメが勝ったのかな?」 |
説明力 | 自分の考えを言葉にする力 | 「ウサギはなにをまちがえたと思う?」 |
国語力 | 言葉選びや表現の力 | 「のろのろって、どんな動き?」 |
集中力 | 話に意識を向け続ける力 | 「つぎに何が起こると思う?」と予測 |
問いかけることで、子どもは「受け身で聞く」から「能動的に考えながら聞く」に変わります。
この姿勢こそが、すべての学びの土台になります。
◆ 年齢別!「ウサギとカメ」の質問例
では実際に、どの年齢でどんな質問を使えばいいのでしょうか?
ここでは、年齢別におすすめの質問とそのねらいをご紹介します。
🔸 3〜4歳向け:「だれ?なに?」を楽しく確かめよう
物語の登場人物や出来事を、「覚えているかな?」という感覚で楽しく確認していきます。
質問例 | ねらい |
---|---|
「はしるのが速いのはどっち?」 | 特徴の把握 |
「さきにゴールについたのはだれ?」 | 結末の記憶 |
「ウサギはなにをして負けたの?」 | 出来事の理解 |
「カメはなにをしてた?」 | 行動の観察 |
🔸ポイント:「カメはなにをがんばったのかな?」など、言いやすい問いから入るのが◎
🔸 4〜5歳向け:「どうして?」と考える力を伸ばそう
この年齢になると、物語の流れや理由についても考えることができるようになります。
質問例 | ねらい |
---|---|
「ウサギは、なんでねちゃったんだろう?」 | 動機を考える |
「カメは、どうして負けそうなのにがんばれたの?」 | 感情と意志 |
「ウサギは、あとでどう思ったと思う?」 | 心の変化を想像する |
「もしもう1回走ったら、どっちが勝つかな?」 | 想像・予測 |
🔸ポイント:「どう思う?」と意見を求めると、発言する喜びが育ちます。
🔸 5〜6歳向け:「教訓」や「たとえ」にも挑戦!
年長児になると、物語から**“教訓”や“自分の考え”を引き出す力**が少しずつ芽生えてきます。
質問例 | ねらい |
---|---|
「このお話って、どんなことを伝えたかったんだろう?」 | 教訓・要点の把握 |
「ウサギとカメのどっちが“かっこいい”と思った?」 | 価値判断 |
「カメみたいな人って、まわりにいる?」 | 社会的視点 |
「きみがカメだったら、どうする?」 | 自分との重ねあわせ |
🔸ポイント:意見に「へえ〜、なるほどね!」と共感を示すことで、自信がつきます。
◆ 読み聞かせは、考える遊びの入り口に
質問つき読み聞かせは、決して「正解を当てるゲーム」ではありません。
「そう思ったの?おもしろいね」
「それは気づかなかったなあ!」
こうした肯定的な返しによって、子どもは「話すことが楽しい」と思えるようになります。
この対話の積み重ねが、
・人の話を聞く姿勢
・自分の意見を持つ力
・ことばで考える力
を、ゆっくりと確実に育ててくれるのです。
◆ さいごに:ウサギにも、カメにもなれる子に
「ウサギとカメ」のお話には、
速くても油断してしまうウサギと、
のろのろでもあきらめずに進み続けるカメの対比があります。
でも本当は、どちらも子どもの中にある力の一部なのかもしれません。
速く動ける時もあれば、ゆっくりでもがんばる時もある。
大切なのは、「どうやってゴールまで進むか」を考える力。
質問をしながらこの物語を読むことで、
子どもは“自分だったらどうする?”という想像を働かせ、
考える力を遊びの中で自然と身につけていくのです。
次にこのお話を読むときは、ぜひ問いかけてみてください。
「カメって、すごいよね。なんでだと思う?」
その一言が、子どもの心の中に、小さな“考える芽”を育ててくれるかもしれません。