1. 「+-」や「-+」の表記──なぜこう書いてしまうのか?
中学に入って最初に学ぶ数学単元「正負の数」。
その中でも多くの生徒が混乱するのが、次のような表記です:
3+-2=1 3-+5+-1= など
これは「数に符号がある」と習った瞬間に、
それまで「+」「-」が演算子(操作記号)だった世界観が崩れ、
演算子と数の符号が混在してしまうことで起きる誤りです。
2. 指導してもなかなか直らない理由
- 小学校までは「符号=演算子」だったため、考え方を根本的に変える必要がある
- 数直線やモデル図で意味をつかむ前に記号操作に入ってしまうと、理解が形だけになる
- 正解しても、書き方のミスが本人の中で“間違い”と認識されにくい(結果が合っていればよいという意識)
つまり、単なる「ミス」ではなく、「概念の再構築が不十分なまま進んでしまっている」ことが原因です。
3. 指導の第一段階:記号の役割を明確に切り分ける
- 演算記号(+・-)は操作を表す:「何をどうするか」
- 符号(+・-)は数の性質を表す:「どんな数か」
この2つを混同しないために、
✅ 演算子は黒、符号は赤で色分けする
✅ 数直線を使って“足す”“引く”を実際に動かす
✅ 「演算子+符号」のまとまりを“かっこごと読む”練習をする(例:「3+(-2)」→“3たすマイナス2”)
4. 第二段階:文字に頼らず、操作の感覚を身につけさせる
- 数直線やコマ移動、カードゲーム形式などの「視覚・体感的操作」で、
“増える・減る”と“正・負”の意味を繰り返し体験させる - 頭の中だけで符号を追うのではなく、動作として理解するプロセスを踏む
5. 書き方のルールは“言語的”に指導する
「記号は連続して書かない」ことを“意味”で理解させるより、
一種の“数学における文法”として教えると定着しやすくなります。
- 数学の文には「記号の文法」があることを明示する
- 「+-」と書かれたら、それは“助詞が2つ続いているようなもの”と例える
- 数を“かっこ”でくくることで、「これは1つの単語です」と明確にする
✅ 練習ではすべての負の数にカッコをつけさせる
✅ 書いた式を音読させる(“3たすマイナス2”など)
✅ 最初のうちは記述式ではなく“並べ替え問題”や“選択式”を使うのも効果的
6. よくある誤解を整理して伝える
❌ 「-5は、引き算の5」→ ✨「“負の5”という種類の数」
❌ 「マイナスはいつも左にある」→ ✨「数の前にあるときは符号、間にあるときは演算子」
❌ 「マイナスとマイナスはプラス」→ ✨「“引くマイナス”という操作の結果がプラス」
このように「なぜそうなるか」を視覚・言語の両面で理解させていくことが重要です。
7. まとめ:正負の数の指導は“文法の再学習”である
- 正負の数の導入は「算数の延長」ではなく「概念の再構築」
- 演算記号と数の符号を切り分けて扱う意識を育てる
- 書き間違いは単なるミスではなく“構造の理解不足”と捉えて根本から見直す
見た目の正しさを求める前に、「数学という言語の意味づけ」をじっくり教えること。
それが、この単元の最大のねらいです。
子供に配布するようのまとめ
正負の数 ~書き方に気をつけよう~
■ ①「+」や「-」は2つの使い方がある!
✅ たす・ひく(やること)を表すとき
- これまで習ってきた「+」「-」のことだよ
- たとえば:
→ 3 + 5 は「3たす5」
→ 8 − 4 は「8ひく4」
✅ 数の種類(せいの数・ふの数)をあらわすとき
- 「+3」は せいの3、「−2」は ふの2 というふうに、数の“マーク”になるよ
■ ② よくあるまちがい
❌ 3+−2 ← こう書くと、まちがい!
✅ 正しくは → 3 + (−2)
- 「−2」は、かっこでかこもう!
- 記号が2つならんでいると、なにをしたいのかが わからなくなるよ
■ ③ 書くときのルール
- せいの数、ふの数は「かっこ」でかこう
→ −5 → (−5) - 「+−」や「−+」のように、記号を2つつづけて書かない
→ 3+−2 はだめ! → 3+(−2) - 書いた式は、「声に出して読む」
→ 3+(−2) は「3たすマイナス2」と読もう!
■ ④ 練習してみよう!
【問題1】つぎの式を せいしく書きなおしてみよう(かっこをつかう)
- ① 3+−5 → __________
- ② 6−+2 → __________
- ③ 2+−1+−3 → __________
【問題2】つぎの式をけいさんしよう
- ① 4 + (−3) = ________
- ② 5 − (+2) = ________
- ③ 6 − (−4) = ________
- ④ −3 + (−5) = ________
【問題3】声に出して読んでみよう
- 例:3 + (−2) → 「さんたすまいなすに」
おぼえておこう!
「+」や「−」が ならんで書いてあるときは、かならず かっこをつけよう!
数字は“マークつきのことば”みたいなもの。だから、まちがえないように書くことがだいじ!
正しい書き方で、正しい理解を。
~「1-+2」はなにがいけない?~
■ よくあるまちがい
1 − + 2 3 − + 5 + − 1
これは、
「私はははは今日いきました」
と同じくらいヘンな書き方です。
■ 「+」「−」には 2つの意味 がある
使い方 | なにをあらわす? | 例 |
計算の合図 | たす、ひく(やること) | 3 + □、5 − □ |
数のマーク | その数がプラスかマイナスか | +2(せいの2)、−3(ふの3) |
■ 正しい書き方の例
まちがい:
3+−2 6−+4 2+−1+−3
せいかい:
3+(−2) 6−(+4) 2+(−1)+(−3)
✅ マイナスやプラスの数は、かっこでまとめる!
✅ 記号を何こも続けて書かない!
■ 書き方を正しくする 3つの理由
- 自分で読めるようになる
- 間違いに気づきやすくなる
- テストで○がもらえる!
■ 練習しよう(下に書きなおそう)
1) 4 + −3 → ____________________________________
2) 6 − +2 → ____________________________________
3) 2 + −1 + −3 → ____________________________________
■ 音読しよう(声に出して読んでみよう)
「4たすマイナス3」
「6ひくプラス2」
「2たすマイナス1 たす マイナス3」 など
■ まとめ
- 書き方は ただのマナー ではありません
- 書き方は 考え方のあらわれ です
- 正しく書けば、正しく理解できる!