はじめに:なぜ、あの子は「間違いに気づけない」のか?
「見直ししてごらん」と促しても、じっと問題を眺めているだけで間違いに気づけない——。
「前のページを確認してみようか」と声をかけても、教科書をめくることなく数分が経つ——。
そんな子どもの様子に、もどかしさを感じた経験のある保護者は少なくないはずです。
しかし、これは「やる気がない」からでも「集中力がない」からでもないかもしれません。
実際、彼らは「やって」います。ただし、「正しく」やれていないだけです。
この問題の本質は、“間違いに気づく力”が育っていないことにあります。
さらに掘り下げれば、その力が育たなかった背景には、育児や学習環境の中で積み重なった無意識のズレが潜んでいます。
第1章:見直しても直せない子どもたちの実態
たとえばこんな場面があります。
生徒:「解き終わりました。答え合わせお願いします。」
先生:「1問間違いがあるね。見直してみようか。」
生徒:(自分の書いた式をぼーっと眺めている)
先生:「テキストを前のページに戻って確認してみたらどう?」
生徒:(ページをめくるでもなく、ひたすら問題を見ている)
この子の学力は「平均的」です。
しかし、なぜ自分のミスに気づけないのか。
なぜ前に書いた「同じミス」をテキストから探し出せないのか。
このような子は、自分の間違いを“検証する”ための視点を持っていません。
また、どこを確認すればよいのかを判断する“見通し”の力もありません。
そしてここが重要なのですが、
これは「授業を受けていないから」ではなく、「授業を受けていても育たない力」なのです。
第2章:「わからない」の本質は“思考の迷子”
こうした子どもたちは、「自分が何をすべきか」が頭の中で整理されていません。
たとえば「2a/3 と書くべきところを 2/3a と書いてしまった」場合、
そこに違和感を持たなければ、その式をどこからどう検証すればいいかさえわからないのです。
つまり、彼らは「思考の迷子」になっているのです。
これは、学力の高低というより、“学び方”の問題です。
そして、学び方は「勉強しなさい」と言われて身につくものではありません。
- なぜこの式になったのか
- 他の解き方ではどうか
- この式と前の式の違いはなにか
こうした「頭の使い方」を教わらず、繰り返す練習やパターン暗記だけで学習を進めていると、
自分の思考を外から見直す力(=メタ認知)が育ちません。
第3章:授業を受けても「学力が伸びない」仕組み
「うちの子、ちゃんと授業は受けているんです」
「学校でも問題演習してるし、家でも復習させてるのに…」
そんな声を保護者から聞くことがあります。
実際、多くの子どもたちは授業を真面目に聞いています。
先生の説明に頷いたり、ノートに書き写したり、友達と教え合ったり。
それでも「学力が伸びない」「ミスに気づけない」と感じるのはなぜでしょうか?
それは、「授業の内容が自分の中で意味づけされていない」からです。
つまり、その学習が“自分ごと”になっていないのです。
たとえば、テキストに「2a/3」と書いてあっても、
それが「aに2をかけて、3で割る」という意味であることを、
自分の頭で“翻訳”できていなければ、式はただの「記号」にすぎません。
そのため、式が間違っていても、何がどうズレているかが判断できず、
結果として「見直しできない子」ができあがってしまうのです。
第4章:「できている気になっている」自己肯定感の落とし穴
さらに深刻なのは、
「わかったつもり」「できたつもり」で満足してしまうタイプの子どもです。
こうした子は、実際の問題で間違えても、
「たまたま」「次は気をつければいい」で済ませてしまいがちです。
本質的な確認や振り返りをせずに、自分の誤りと真剣に向き合わない。
この背景には、幼少期から育ってきた「歪んだ自己肯定感」があることも少なくありません。
- 間違えたときに、親や教師から強く叱られすぎて、間違いを直視することが怖くなった
- 「すごいね」「できたね」と褒められることに慣れ、間違えることを極端に恐れる
- いつも周囲が先回りして「間違いを直してくれていた」ため、自力での検証経験がない
このような過去の関わり方の蓄積が、
子どもを「自分で自分の誤りを検証できない人」に育ててしまうのです。
結果として、
ミスをしても「まぁいっか」で済ませる癖
間違えた自分に蓋をする癖
が染みついてしまうのです。
第5章:見直しの力を育てる家庭のアプローチ
では、家庭でできる具体的なアプローチは何でしょうか?
ここで重要なのは、「間違いを叱らない」ことではなく、「間違いの意味に一緒に気づいてあげる」ことです。
以下のような対応が効果的です:
✅ 1. 子どもと一緒に“間違いの理由”を言語化する
たとえば、
「なんでここ、こうなったんだと思う?」
「自分で解いてみて、ここまでは合ってたよね。ここからどうズレたかな?」
というふうに、「どこが」「なぜ」ズレたのかを、一緒に“言葉”にして整理します。
このプロセスは、見直し=原因探しの思考を育てます。
✅ 2. 間違いノート・振り返りメモをつけさせる
ミスをしたときに「どこで」「なにを」「どう間違えたか」を記録させると、
子ども自身が「自分の傾向」を客観視できるようになります。
これはまさに、“メタ認知”の第一歩です。
✅ 3. 答えより「考えたプロセス」を重視する声かけ
「答えが合ってるかどうか」ではなく、
「どうやって考えたの?」「なんでそう思ったの?」といったプロセスに焦点を当てることで、
答え合わせより“思考の検証”が重要であることを自然に体得させられます。
第6章:「ミスに意味を見出せる子」になるために
成長できる子どもの最大の特徴は、「ミスに意味を見出せること」です。
ミスを“恥ずかしいもの”“怒られるもの”として認識しているうちは、
「間違いから学ぶ」ことができません。
逆に、間違いを「きっかけ」として受け止められる子どもは、
次のような姿勢を自然に身につけていきます:
- 自分の理解がどこまでだったのかを把握する
- 確認の手順を自分で選べるようになる
- 似たようなミスを回避できるようになる
これは単なる“成績の向上”にとどまらず、
社会に出てからも役立つ「修正力」「再挑戦力」の土台となります。
まとめ:見直しの力は、人生の軌道修正力
私たちは誰しも、間違いをする生き物です。
そして、間違いの中にこそ“学び”の本質があります。
見直しとは、ただ答えを見比べる作業ではなく、
自分の思考を一歩引いて見つめ直すトレーニングなのです。
親ができることは、
子どもが「気づける人」になるよう、少しずつその力を引き出していくことです。
- 「なぜミスに気づけなかったか」
- 「どうすれば次に生かせるか」
- 「そのために何を見直せばいいか」
この思考回路があるかどうかで、
子どもの将来の“学び直す力”は大きく変わります。
そしてその力は、受験にも、社会にも、人生にも、必ず活きてくるのです。