はじめに
「うちの子には、やっぱり大学には行ってほしい」
多くの保護者が、そう願っているのではないでしょうか。
親の世代にとって、大学とは「限られた人が行く場所」でした。大学進学者が2~3割だった時代、大学を卒業することはそのまま社会的信用や将来の安定につながるものでした。そして今も、「大学にさえ行けばなんとかなる」というイメージが根強く残っています。
しかし、現在の大学進学率は約60%を超え、もはや大学は「誰でも行ける場所」になりつつあります。しかも、進学後の学びの質、進路の多様化、経済的負担、そして社会の変化をふまえると、「とりあえず大学へ」はリスクですらあるのです。
本記事では、「大卒か高卒か」という単純な二択にとどまらず、現代において親が子どもの最終学歴をどう考えるべきか、その視点を深掘りしていきます。
第1章:親の「大学進学信仰」は、時代の常識に基づいている
40代以降の親世代にとって、「大学を出る」ことは一種のステータスでした。大学進学率は30%以下。周囲の多くは高卒で就職し、大学は「特別な努力をした人が進む先」でした。
その記憶があるからこそ、親としては「高卒じゃ心配」「せめて短大や専門よりも4大卒であってほしい」と思うのも当然かもしれません。
しかし今、大学は「特別な場所」ではありません。むしろ、「大学に行かないと浮く」ような社会に変わってきています。結果、「何のために行くのか分からないまま進学する子」が大量に生まれています。
その“大学信仰”は、もはや実態にそぐわないものとなっているのです。
第2章:大学の“学びの質”の低下と現場の実情
現在、大学の講義では、中学校の学習内容をやり直すケースも増えています。実際に多くの大学で、1年次の「リメディアル教育(補習教育)」として、連立方程式や英語のbe動詞、主語・動詞の一致などを扱う授業が存在します。
それだけ、基礎学力が不足したまま大学に進学している子が多いということです。これは、裏を返せば「大学に行く=高度な学びをする」わけではない、という現実を意味します。
さらに、出席さえすれば単位がもらえる、レポートはAIやコピペ、内容が分からなくても卒業できる――こうした実態も決して珍しくありません。
大学の価値が下がっているのではなく、「入る大学」「学ぶ姿勢」によって価値が大きく異なる時代になっているのです。
第3章:実は“高卒の方が選ばれる”場面もある現代の就職事情
高卒と大卒では、生涯年収に大きな差がある――。これは今でも一般的なイメージですが、これは「大卒=高学歴エリート」の時代に成立していた話です。
現実には、高卒の方が早く現場に出て経験を積み、安定した収入とスキルを得ている例が多数あります。特に製造業・建設・物流・インフラ系の業界では、高卒者の求人倍率が大卒を上回ることも珍しくありません。
企業側も、20歳前後の若者に「大学卒業後にようやく新卒で来る人材」よりも、「18歳で働き始め、すでに2~3年の経験がある若者」の方が即戦力として評価できる場面が増えています。
就職市場において、「高卒だから不利」という図式はもはや過去のものになりつつあるのです。
第4章:「大学に行けばなんとかなる」はもう通用しない
多くの親が信じてきた「大学に行けば安定」という時代は、もはや終わっています。
一人暮らしを伴う私立大学に進学すれば、4年間で700万~800万円が必要になります。その負担に見合うだけの“リターン”がなければ、進学自体が浪費になりかねません。
しかも、「何となく大学に行ったが、目標も見つからず、成績も低迷し、やる気もない」となると、大学生活は本人にとっても親にとっても苦痛の時間になります。
その結果、大学中退・長期留年・就職浪人という事態になれば、経済的にも精神的にも大きなダメージを残します。
つまり、「とりあえず大学」はもはや“リスク”であり、家庭の人生設計を狂わせる火種にもなり得るのです。
第5章:それでも“大学に行くべき子”の特徴とは?
では、大学は意味がないのかというと、決してそうではありません。以下のようなタイプの子にとっては、大学進学は極めて有効です。
- 専門職に就く明確な目標(例:教員、医療系、研究職など)がある
- 高校時代から強い知的好奇心があり、自発的に学ぶ姿勢を持っている
- 自分の得意分野や進みたい領域が定まっており、それに必要な学歴を理解している
- 上位校(偏差値65以上)に入れる学力がある、もしくは学費を自己負担できる手段がある
このような子には、大学は「自分を育てる武器」となります。親としても、進学に対して肯定的に支援すべきでしょう。
第6章:親が子どもの学歴について考えるための3つの視点
学歴を“目的”にしてしまうと、子どもの人生の本質を見失ってしまいます。親が冷静に学歴について向き合うために、以下の3つの視点を持ちましょう。
1. 社会的見栄ではなく、子どもの適性と性格を見る
学歴は「親が安心するための飾り」ではありません。子どもの性格、興味関心、将来像に照らして判断すべきです。
2. コストに見合う「学び」があるかを考える
学費・生活費を支払う価値があるのか? その問いを常に持ってください。例えば、月12万円の学費と家賃を払って、基礎学力の補習をしている大学生活に意味はあるでしょうか。
3. 「高卒」「専門」「技能職」「自営」など多様な選択肢を尊重する
現代社会では、学歴がすべてではありません。手に職をつける、職業高校から起業する、など多彩なキャリアが存在します。進学以外の道にも価値があることを、親自身が知っておく必要があります。
まとめ:学歴ではなく、“学び”で人は変わる
「せめて大学くらいは」という気持ちは理解できます。けれど、それは親が安心したいだけの“願望”でしかないかもしれません。
本当に大切なのは、「どこまで学んだか」ではなく「どう学び、何を得て、どう活かしたか」です。
今の時代、高卒でも専門的なスキルを身につけて活躍している人が大勢います。一方で、大卒でも目的なく進学した結果、苦しんでいる若者も少なくありません。
親としてすべきことは、子どもに無理に学歴を押し付けることではなく、「学ぶことの意味」や「人生の選択肢」を一緒に考えること。
“大学に行く”という行動が、子どもにとっての「目的」になってはいけません。子どもが自分自身の目標に向かって歩み出すための“手段”として、学歴という道具をどう使うか。それを一緒に考えることが、今、親に求められている姿勢なのです。