過剰にほめるスタイル
自分の弱点を知り、それを乗り越える
「ほめる先生」と「向き合わせる先生」
ほめて育てると、自己肯定感が高まる
■はじめに:子どもが「楽しい」と感じる学びとは
「うちの子、塾に通い始めてから楽しそうなんです」
「前より自信がついたみたいで、よく笑うようになりました」
子どもの学びに「楽しい」という感情が伴うことは、決して悪いことではありません。自己肯定感が高まり、勉強に前向きになるという意味で、ほめる指導には一定の効果があります。
しかし一方で、「楽しい」や「ほめてくれる」ということだけに満足してしまい、本質的な学力向上が置き去りにされているケースも少なくありません。子ども自身が「できているつもり」になっているとしたら、それは大きな落とし穴です。
本記事では、なぜ「ほめてくれる塾」だけでは学力が伸びづらいのか、そして本当に子どもを伸ばしてくれる先生の条件について掘り下げていきます。
■ほめることの落とし穴:自己肯定感≠学力
「よくできたね」「すごいね」「天才だね」
こうした言葉を浴びせられた子どもは、一時的に気分がよくなります。実際に塾や家庭教師の中には、子どものモチベーションを高めるために、過剰にほめるスタイルを取るところも多くあります。
しかしここで大切なのは、「何を根拠に」「どのタイミングで」ほめているかということです。
実際には間違えていたり、理解が浅かったりする内容でも、「がんばってるね」とだけ言われて終わると、子どもはそのまま自分を「できている」と勘違いしてしまいます。
この「錯覚した理解」の積み重ねが、後になって深刻なつまずきを生み出すのです。たとえば中学受験や高校受験のように出題傾向が変わる場面で、「勉強はがんばってきたはずなのに、思ったように点が取れない」という事態に直面することになります。
■学力は「苦手を直視する」ことでしか伸びない
学力を伸ばすとは、「自分の弱点を知り、それを乗り越える」ことです。
つまり、本当の意味での成長には、「自分のダメなところを直視する」という苦しい作業が必要なのです。
これは決して楽しいことではありません。むしろ、心が折れそうになることもあります。
しかし、この「苦手」と向き合う姿勢を導いてくれる先生がいなければ、子どもはいつまでも「自分の得意なこと」「好きな単元」ばかりに逃げ込むようになります。
「今できていないこと」に向き合わせてくれる先生、そしてそれを「できるようになるプロセス」を一緒に歩んでくれる先生こそが、子どもの学力を本当の意味で伸ばしてくれる存在なのです。
■「ほめる先生」と「向き合わせる先生」の違い
同じ問題を間違えたとき、先生がどう接するかは大きな違いを生みます。
例1:「ほめる先生」
「惜しかったね!でも前よりよくなってるよ。がんばったから大丈夫!」
→ 子どもは安心します。しかし、なぜ間違えたのかを深く掘り下げることはありません。
例2:「向き合わせる先生」
「ここでミスをした原因を一緒に見てみよう。前も同じようなミスをしていたよね?そこが改善されないと、また同じところでつまずくよ。」
→ 子どもはドキッとします。ときに落ち込むこともあります。しかし、その指摘が的確で、具体的な修正方法まで伴っていれば、やがてその子は「わかった」「できるようになった」という達成感にたどり着きます。
本当に子どもが成長するのは、後者のような「痛みのある指導」です。
■子どもの“本当の変化”とは何か
「うちの子が、自分から間違い直しをするようになった」
「苦手な単元から逃げなくなった」
「テストでダメだった教科を見せながら、『どうやったら良くなるかな?』と相談してくるようになった」
こうした変化が現れてきたとき、初めてその子の中で「学力を伸ばす力」が育ち始めていると言えます。
それは、単なる知識量の増加ではなく、「自分を見つめ直す力」「努力を継続する姿勢」が備わってきた証拠です。
そして、その変化を導くのは「心地よい言葉」ではなく、「的確なフィードバック」と「逃げ道を作らない寄り添い」なのです。
■自己肯定感は「できた」という実感からしか生まれない
「ほめて育てると、自己肯定感が高まる」
そんな言葉をよく耳にします。しかし、それは半分正しくて、半分は誤解です。
確かに、子どもが努力したことに対して「がんばったね」と認めてあげることは大切です。けれども、ただ何となく「すごいね」「えらいね」と言われ続けても、子どもの中には“空っぽの自信”だけが残ります。
本当の自己肯定感は、「自分はここまで努力してきた」「できなかったことができるようになった」という実感を通してしか育ちません。
そして、それを支えるのが「自分ならできるかもしれない」と思える小さな成功体験=自己効力感です。
だからこそ、まず必要なのは「自分の苦手に向き合い、それを乗り越える経験」です。逃げずに取り組んで、できるようになったという手応え。それが自己肯定感の土台をつくっていくのです。
ただ「ほめる」だけでは、本当の意味での肯定感は育ちません。
甘やかされた経験ではなく、「努力して報われた」という経験が、子どもを強くします。
■親ができること:ほめるよりも見守る、問いかける
では、親としてはどう関わるのが理想なのでしょうか?
大切なのは、「成果」ではなく「過程」を問いかけることです。
- 「今日はどこがうまくいかなかったと思う?」
- 「前より少しでもできるようになったところはどこ?」
- 「次は何をがんばってみたい?」
こうした問いを通して、子ども自身が「考える」習慣を身につけていきます。
それが「自学力」の芽となり、「誰かにほめられないとがんばれない」状態から脱却していく第一歩です。
■まとめ:甘い言葉より、厳しくも誠実な眼差しを
学力を伸ばすとは、子どもに「成長のための痛み」と「乗り越えるプロセス」を体験させることです。
それは、ただほめるだけの関わりでは実現しません。
本当に必要なのは、子どもが逃げ出したくなるような“弱さ”に、目をそらさず向き合わせてくれる大人の存在です。
そしてその姿勢が、将来的に自分自身の課題にも立ち向かえる「生きる力」を育てていくのです。
「楽しい塾」「やさしい先生」ではなく、
「成長に向き合える場所」「変化を促してくれる先生」を選んでください。
子どもの未来は、目先の快適さよりも、長い目で見た“自立”によって輝くのです。