『はじめてのおつかい』で育てる5つの力―ドキドキの体験を通して、「できた!」の芽を育てよう―



◆ 小さな“できた”が、心を大きくする

『はじめてのおつかい』は、5歳のみいちゃんが、母に頼まれて一人で牛乳を買いに行くお話。
ころびそうになったり、お金を落としかけたり、大きな声が出せなかったり……。
小さなトラブルに立ち向かいながら、みいちゃんは一歩ずつ“ひとり”で進んでいきます。

この絵本は、幼い子どもが「社会のなかで一歩踏み出す姿」を、リアルに丁寧に描いた名作です。


◆ 「できた!」という感情を、ことばにして育てよう

この物語には、子どもが「自分の体験と重ねて考えられる」要素がたくさんあります。

  • ひとりでおつかいというはじめての挑戦
  • 思い通りにいかない場面でのくやしさや不安
  • 自分なりにがんばったあとに得られる達成感

だからこそ、読み聞かせに質問を交えることで、子どもは「自分だったらどうする?」と考えるようになります。


◆ 質問が育てる5つの力

育つ力内容はじめてのおつかいでの例
感情理解不安・緊張・がんばりの感情を捉える「みいちゃんは、どんなときにドキドキしたかな?」
読解力物語の流れと出来事を整理する力「なにを買いに行ったんだっけ?」
思考力行動と理由、選択の意味を考える力「なんでみいちゃんは、大きな声が出なかったの?」
自己理解自分と登場人物を重ねて考える力「きみだったら、どうする?」
表現力自分の経験や考えをことばにする力「むずかしかったこと、がんばったことってある?」

◆ 年齢別『はじめてのおつかい』の質問例


🔸 4〜5歳向け:「なにがあった?どう思った?」を一緒にふりかえる

登場人物の気持ちや行動を確認しながら、安心して考えを広げられる質問を。

質問例ねらい
「みいちゃんは、なにをたのまれたの?」出来事の理解
「どこにいくおつかいだった?」場面の把握
「どんなとき、こわそうだった?」感情の認識
「さいごに、おかあさんはなんて言った?」結末と安心感

🔸ポイント:やさしく「思い出してみようね」と声をかけながら質問すると◎


🔸 5〜6歳向け:「なんで?どうして?」で挑戦と成長を読み解く

行動と感情の理由を深く考え、みいちゃんの成長を言葉にしていきます。

質問例ねらい
「どうして、みいちゃんははじめてのおつかいに行くことになったの?」動機の理解
「どうして、なかなか声が出なかったのかな?」心の動きの理解
「みいちゃんが“がんばった”って思えるのはどんなとこ?」成長の発見
「もし自分がみいちゃんだったら、どうしてた?」自己投影と判断力

🔸ポイント:「みいちゃんのここがすごいと思った!」という親の気づきも伝えると効果的。


🔸 小学校低学年向け:「社会」「信頼」「経験」へ広げる問い

日常生活・人との関係・経験の意味をふまえた質問で、社会性や価値観を育てます。

質問例ねらい
「どうして“ひとりで行く”って、うれしくてこわいのかな?」複雑な感情の整理
「お店の人は、みいちゃんにどうしてあんな声で答えたのかな?」他者の行動の理解
「“おつかいができた”って、どんなことだと思う?」自立・責任感への気づき
「きみが“はじめてやったこと”って、なに?」経験の言語化と共有

🔸ポイント:「おつかい」の本質を“社会の一員としての一歩”としてとらえる視点を。


◆ 読み聞かせが、「やってみたい!」を後押しする

『はじめてのおつかい』を読んでいると、多くの子どもはこう言います。

「わたしもひとりで行ってみたい!」
「ぼくもパンかってこようか?」

読み聞かせに問いかけを加えることで、
この“やってみたい”気持ちは、単なるマネではなく、「挑戦してみよう」という前向きな感情に変わります。


◆ さいごに:“ちいさな一歩”が、じぶんを育てる

この絵本のラストで、お母さんにぎゅっとされながらみいちゃんが牛乳をわたす場面。
たったこれだけの出来事なのに、読み終わったときの満足感と感動はとても大きい

それは、この物語が子どもたちに伝えているからです。

  • 「できるようになったね」
  • 「がんばったね」
  • 「失敗してもいいよ」

次に読むときは、こう問いかけてみてください。

「きみの“はじめて”って、なにがあった?」
「そのとき、どんな気持ちだった?」

その一言が、子どもの中に“次の一歩”を踏み出す力を育てるはずです。