「話ができない子ども」の背後にある危機 思考の断片化と学力の崩壊

【日常的な場面】

 次の会話は、学校では平均的な学力があるといわれている、小学校5年生と通っている塾の先生との会話です。

先生:「またノートに落書きをしてるけど、授業中に落書きしていいって言ったかな?」
子ども:「・・・ぃゃ・・・」
先生:「いや、じゃなくて、ちゃんと話してください」
子ども:「・・・」
先生:「今何の話をしていたんだっけ?」
子ども:「・・・ノート・・・」
先生:「ノートだけじゃわからないよ」
子ども:「・・・らくがき・・・」
先生:「“ノート落書き”ってなに?ちゃんと文章で話せないかな?」
子ども:「・・・いや・・・」

このようなやりとり、見覚えがありませんか? 「うちの子も少し口下手で…」と思って読み飛ばさないでください。


【“話せない”のは単なる性格ではない】

 人は言葉で考えます。子どもは、日々の対話を通じて「文章で伝える力」「考えを構築する力」を身につけていきます。しかし、言葉としてつながる文が作れない子は、思考そのものが断片的になりがちです。

 「さっきの話」と「今の行動」を結びつけて説明できない。
 「主語・述語」がなく、「だって」「いや」「ちがう」だけの返答が続く。

  これらはすべて、単なる“口下手”ではなく、言語的な結合力の不足による問題です。


【話せない=思考が深まらない】

例えば「ノートに落書きしていたのはなぜ?」と問われても、「…ノート」「…らくがき」しか言えない子ども。 これでは先生とのやりとりどころか、自分の気持ちすら整理できません。

親御さんが「うちの子はおとなしい」と表現するケースの中には、実は“言葉での表現力”が育っていないだけの場合もあります。

このままでは、学校生活で困る場面がどんどん増えていきます。


【親の誤解が育ちを止めてしまう】

「口数が少ないだけ」「内気で人見知り」——。 そう思って、子どもとの対話を深める機会を見過ごしていませんか?

 子どもが「文」で話せないときには、「単語だけで答えないで」「“何をどうした”まで言ってごらん」と毎日少しずつ促すことが大切です。

 「なぜそう思ったの?」「それを言ったのは何のため?」と、日常の中で“考えを言葉にする”練習を積み重ねることが、将来のコミュニケーション力や学力につながります。


【まとめ】

 子どもが「話せない」背景には、思考力や言語力の発達が滞っている可能性があります。

 それを性格のせいと決めつけず、「言葉で考え、言葉で伝える」力を家庭の中でも意識的に育てることが、親としてできる大きな支援です。

 特別な教材が必要なわけではありません。 「どうして?」「なぜ?」「どう思う?」といった声かけが、子どもの“考える力”と“伝える力”の土台になります。

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