読解練習:守るために犠牲にしたこと【Lv.15|探究・哲学対話特化】
僕の妹が学校で、先輩に呼び出されていた。原因は、部活の道具の管理が甘いと注意されたこと。
でも実際に鍵をかけ忘れたのは、僕たち2年生の当番だった。妹は当番表を見て、僕にだけこっそり知らせてくれた。
翌日の職員会議で、問題が明るみに出そうになった。顧問から「誰が鍵をかけ忘れたか」と問われたとき、
僕はとっさに、当番だった後輩のSの名前を言ってしまった。
僕とSのペアで担当だったが、Sは新人で、僕の指示がないと動けないタイプだった。
正確には、僕の責任のほうが大きかった。でも、妹を巻き込みたくなかったし、自分が責任を取れば、
今後の大会出場にも影響するかもしれない。Sは謝った。誰もSをかばわなかった。
それから彼は、部活に来なくなった。
「妹を守った」「チームを守った」そう思おうとした。
でも、それが誰かを犠牲にしたという事実を、完全に消すことはできなかった。
「しかたなかった」と言い聞かせるたびに、自分が何かを切り捨てたことを強く感じる。
僕が守ったものは、本当に正しかったのだろうか?
その代わりに失ったものは、いったいなんだったのだろうか?
◆ 問題
- 筆者は、なぜ後輩のSの名前を出してしまったのですか?そのとき、何を守りたかったのでしょうか?
- 「しかたなかった」と思おうとする筆者の気持ちには、どんな葛藤がありますか?
- あなたが筆者の立場だったら、どのように行動していたと思いますか?理由も含めて考えを書いてください。
- 「誰かを守る」という行動の中で、他者を犠牲にすることは許されると思いますか?その責任はどうあるべきだと思いますか?
◆ ポイント
- 守る・かばう行動の中に潜む「選択の犠牲」を具体的に見つめさせる構成。
- 自己正当化と罪悪感が混ざった「しかたなかった」という言葉の重みを問い直す。
- 正義・愛・責任が重なる選択をどう引き受けるかを、自己の価値観で考察させる。