読解練習:守ったはずなのに、壊れてしまった関係【Lv.15|探究・哲学対話特化】
文化祭の準備で、クラスは遅くまで残って作業をしていた。
僕はその週、妹の通院や家の手伝いで帰宅時間が早かった。
担当していた飾りが間に合わず、先生に「誰が最後まで責任を持つ役割だったのか」と聞かれたとき、
僕は同じ班のMの名前を出した。
Mは数日前に、「私が締めておくよ」と言っていた。でも、本当は班全体での役割分担だった。
僕は、「Mがやるって言ってた」と言えば、自分の家庭の事情に触れずに済むと思った。
Mは何も言い返さなかった。でも、その日を境に僕とはほとんど話さなくなった。
僕は、家のことを守った。でも、Mとの関係を壊した。
「しかたなかった」と言い聞かせるたびに、どこかで自分が嘘をついたような気がする。
僕が守ったものは、本当に大切だったのだろうか。
守ることと傷つけることは、どうして同時に起きてしまうのだろう。
◆ 問題
- 筆者は、なぜMの名前を出してしまったのでしょうか?そのとき、何を避けたかったのでしょうか?
- 「しかたなかった」と思おうとする筆者の気持ちには、どんな葛藤がありますか?
- あなたが筆者の立場だったら、どう行動したと思いますか?その理由も含めて答えてください。
- 「誰かを守る」行動の裏で、他の誰かを犠牲にする可能性があるとき、あなたは何を基準に判断しますか?
◆ ポイント
- 家庭の事情や人間関係が複雑に絡む中で、「選ばざるを得なかった行動」の意味を問い直す。
- 「しかたなかった」という言葉の中にある、責任逃れと自責の感情を見つめさせる。
- 倫理的選択における「守る」と「切り捨てる」の両立不可能性を考察させる設計。