◆ 大切なぬいぐるみと出かける旅には、心が動く場面がいっぱい
「こんは、きつねのぬいぐるみ。あきは、こんのともだち。」
やさしく始まるこの一文から、物語は一気に“心の旅”へと広がっていきます。
『こんとあき』は、林明子さんによる感情の機微にあふれた名作絵本。
ぬいぐるみの「こん」と、女の子「あき」が、おばあちゃんの家を目指して一緒に冒険します。
「どうして、あきは“こん”を連れていったの?」
「途中で“こん”がいなくなったとき、あきはどんな気持ちだった?」
「“こん”はほんとうに“ぬいぐるみ”なのかな?」
質問をはさみながら読むことで、
子どもたちは登場人物の感情に共感したり、自分の経験と重ねたりして、
「読む」から「感じて考える」読書体験へと変わっていきます。
◆ 『こんとあき』は「感情と思考のよい練習台」
この作品には、子どもの心を揺らす要素がたくさんあります。
- 身近なぬいぐるみとの絆
- 初めての遠出・冒険
- トラブル・不安・再会
- 行動と思いやりにあふれた展開
だからこそ、読んでいる最中に**「どんな気持ち?」「なぜそうしたの?」と問いかけるだけで、感情理解・思考力・言語力が同時に育ちます。**
◆ 質問が育てる5つの力
育つ力 | 内容 | こんとあきでの例 |
---|---|---|
感情理解 | 登場人物の気持ちを想像する | 「あきは“こん”がいなくなったとき、どう感じた?」 |
読解力 | 展開・出来事・背景の把握 | 「どうして電車に乗って、おばあちゃんのところへ行ったの?」 |
思考力 | 行動の理由や選択を考える力 | 「“こん”は、どうしておばさんに話しかけたのかな?」 |
表現力 | 自分の考えや気持ちを言葉にする | 「あきが“こん”を大事に思ってること、どういう場面でわかった?」 |
想像力 | 自分の立場に置きかえて考える力 | 「もし自分だったら、どうする?」 |
◆ 年齢別「こんとあき」の質問例
🔸 3〜4歳向け:できごと・行動の確認を通して物語をつかむ
物語の流れを一緒にたどるような、記憶確認型の質問が効果的です。
質問例 | ねらい |
---|---|
「“こん”って、なに?」 | 登場キャラの認識 |
「“あき”は、どこに行ったの?」 | 場面の確認 |
「こんは、どこでいなくなった?」 | 出来事の記憶 |
「さいご、ふたりはどうなった?」 | 結末の理解 |
🔸ポイント:質問と一緒にページを見返しながら読むと、記憶がしっかり定着します。
🔸 4〜5歳向け:感情や行動の理由に注目する
キャラクターの気持ちや行動の意味を、問いを通して言葉にしてみましょう。
質問例 | ねらい |
---|---|
「“あき”はどうして“こん”を持っていったの?」 | 感情と思いの理解 |
「電車の中で、どんなことがあった?」 | 出来事の整理 |
「“こん”は、どんなふうにあきを助けてた?」 | 役割と関係性の理解 |
「“あき”は、どんな子だと思う?」 | 他者理解・性格への気づき |
🔸ポイント:「そう思ったんだね!」と受け止めることで、発言が増えていきます。
🔸 5〜6歳向け:教訓・関係性・自分の立場から考える
感情と行動のつながりを読み取る力や、物語全体からの学びを引き出していきましょう。
質問例 | ねらい |
---|---|
「“あき”と“こん”の関係って、どんなふうだった?」 | 関係性の深読み |
「“こん”はほんとうにぬいぐるみなのかな?どう思う?」 | 想像力と読解の融合 |
「このお話で、なにがたいせつだと思った?」 | 教訓の発見 |
「もしきみが“あき”だったら、どうしてた?」 | 自己投影と判断力 |
🔸ポイント:「言葉にしにくい気持ち」にも寄り添い、考えを言語化する支援を。
◆ 読み聞かせの中で、「感じる→考える→話す」の流れをつくる
『こんとあき』の魅力は、言葉にならない気持ちに、じんわり寄りそう優しさです。
だからこそ、問いかけの中でも「正解」を求めるのではなく、
「あなたは、どう感じた?」と受け止める姿勢がとても大切です。
子どもは物語を通して、感情に触れ、相手の気持ちを想像し、
それを**“自分の言葉”で伝える力**をゆっくり育んでいきます。
◆ さいごに:「だいじょうぶだよ」と言える子に
『こんとあき』の中で、こんがたびたび言う一言。
「だいじょうぶだよ」
この言葉は、ただの安心ではなく、
**相手の気持ちを思ってかける“やさしいことば”**です。
読み聞かせの中で、子どもが「気持ちを言葉にする経験」を重ねていけば、
きっといつか、自分の大切な人にも「だいじょうぶだよ」と言える子に育っていくはずです。
ぜひ、次にこの絵本を読むときは、こんな声かけを加えてみてください。
「“あき”はどうして泣かなかったのかな?」
「“こん”って、ほんとうに生きてると思う?」
その問いが、ことばと心をそっと結びつけるきっかけになります。