就職できる子とできない子の違いはどこにある?― 高卒・大卒よりも重要な「働く力」を育てるために ―


はじめに:高卒でも大卒でも「就職に強い子・弱い子」がいる理由

「子どもには大学まで行かせたい」
これは多くの親が持つ自然な願いです。
ところが近年、「大学まで出ても就職できない」「高卒でも即戦力として活躍する子がいる」といった声を聞く機会が増えてきました。

事実、求人倍率を見ると、職種によっては高卒の方が採用されやすい傾向すらあります。また、大学のレベル低下が進み、かつての“中堅大学”が今では“上位校”として扱われることもあるほど。
こうした時代の中で、学歴がそのまま「安定した就職=幸せな未来」を保証するものではなくなってきました。

では、就職できる子と、できない子の違いはどこにあるのでしょうか?

この問いに答えるために、まずは「学歴と就職の現実」から整理してみましょう。


第1章:「学歴があっても就職できない」若者たち

「Fラン大学に入ったけれど、就職先が見つからずフリーターに」「大卒で事務職希望だったが、書類で落とされる」「就職先はあったが、数か月で辞めてしまった」
こうした声は、決して珍しいものではありません。

学歴があるにもかかわらず、社会に出てからつまずく若者たちは少なくありません。むしろ、学校では「真面目で勉強はできたのに」社会に出た途端、居場所をなくすというケースすらあります。

◆ 学歴偏重の限界

昭和~平成初期の時代までは、「とにかく大学に行けばなんとかなる」という社会構造が機能していました。企業も「大卒枠」を重視し、学歴だけで採用されることも珍しくなかったのです。

しかし、現在は違います。

企業は「学歴よりも人間性」「学ぶ力よりも使える力」を重視するようになり、採用の際には以下のような点を重く見るようになりました。

  • コミュニケーション力
  • 最低限の常識や礼儀
  • 困難な状況に耐える力(ストレス耐性)
  • 指示を正確に理解し、行動に移す力
  • 自ら考え、行動する姿勢

これらは「学力」では測れないものばかりです。つまり、いくら偏差値の高い大学を出ていても、“働く力”がなければ社会で評価されないのです。

◆ 高卒で評価される子もいる

一方で、高卒で就職したにもかかわらず、3年後には上司から「主任に」と声をかけられる子もいます。学歴こそ高くなくても、真面目に報連相を徹底し、笑顔で接客し、周囲と協力できる――そんな若者は、どの職場でも重宝されます。

親として知っておきたいのは、「学歴ではなく“現場で必要とされる力”を育てることが本質」という事実です。

第2章:「就職できる子」の共通点とは?

「うちの子、なぜか就職はすんなり決まりました」
「高卒だけど、面接で気に入られてすぐ内定をもらいました」

そんな若者に共通しているのは、成績の良さではなく、“人と働く”ことへの適応力です。
では「就職できる子」に見られる特徴とは、具体的にどんなものなのでしょうか?


◆ ① 素直に指示を受け取れる

社会では「聞く耳」があるかどうかはとても大きな資質です。
指示に対して「はい」と受け止めて動けること。わからないときは「すみません、もう一度教えてください」と言えること。

このような“素直さ”は、どの業界でも信頼されます。
逆に、反抗的・無反応・言われたことしかしないタイプは敬遠されがちです。


◆ ② 挨拶・礼儀・報連相ができる

これも非常に基本的ですが、現実にはできない若者が多くいます。
「おはようございます」が言えない、「すみません」「ありがとうございます」が言えない――それだけで、どんな仕事でもつまずきます。

「〇〇しておきました」「いま確認中です」「この件どうしましょうか」
そうした報連相を自然にできるかどうかは、学校の勉強よりも職場での信頼に直結します。


◆ ③ 地道な作業を投げ出さない

最初の仕事は単調だったり、ミスが続いたり、理不尽に感じたりすることもあります。
それでも“耐えてコツコツ取り組める子”は、成長の機会を得て、上司にも信頼されていきます。

逆に、「向いてない」「つまらない」「やめたい」とすぐに投げ出すと、「我慢できない子」として印象が悪くなります。


◆ ④ 自分の言葉で話す力がある

「はい・いいえ」だけでなく、「こう考えたので、こうしました」と、自分なりの言葉で説明できる力は大きな武器になります。
たとえ語彙が少なくても、自分の意思や考えを言葉にする姿勢があるかどうかで、印象が変わります。


第3章:非認知能力とは何か?社会に出てからの武器

これまで見てきたような力は、「非認知能力(ひにんちのうりょく)」と呼ばれるものです。
これは、テストで測れる「認知能力(学力やIQ)」に対し、数値では測りにくい、人間性や社会性、粘り強さ、協調性などを指します。


◆ なぜ非認知能力が注目されているのか?

近年の研究では、「社会で成功するためには、学力よりも非認知能力の方が影響が大きい」と言われることが増えています。

たとえば以下のような力:

  • 感情をコントロールする力
  • 目の前の課題に集中する力
  • 他人の気持ちを想像する力(共感力)
  • 困ったときに助けを求める力
  • チームで役割を果たす力

これらは就職だけでなく、その後の離職率や昇進率、社会的幸福度にも強く影響するのです。


◆ 家庭で育まれる「非認知能力」

非認知能力は、塾や学校だけで育つものではありません。
むしろ、家庭での会話や生活習慣の中で育つ部分が大きいのです。

たとえば:

  • 食事中に家族で会話する
  • 自分の意見を聞いてもらう
  • 役割分担や当番をこなす
  • 失敗しても怒られず、原因と向き合える

こうした日常のやり取りが、「考える力」「我慢する力」「伝える力」となっていきます。

第4章:「大学に行けばなんとかなる」はもう通用しない

かつては「とにかく大学に行っておけばなんとかなる」と言われていました。
しかし、現在はその“神話”が崩れつつあります。


◆ 大学のレベルが全体的に下がっている?

「今の東大は、20年前の明治大学レベル」
「大学で be動詞から教えている」――こうした話は決して誇張ではありません。

大学進学率の上昇により、“誰でも入れる大学”が増えました。
それに伴い、授業のレベルが低下し、大学4年間で「高校の復習+基礎常識」しか学べていない学生も珍しくありません。

つまり、“大学にさえ行けば未来が開ける”という時代ではなくなったのです。


◆ 「大学に行って何を得るか」が問われる時代

「偏差値50の大学に行って、4年間アルバイトとゲームしかしていない」
「友達もできず、コミュニケーションも苦手なまま卒業」
こうした“中身のない4年間”を過ごすくらいなら、最初から高卒で現場経験を積んだ方が良い、という見方もあります。

大切なのは、

  • 大学で何を学ぶのか
  • どんな力を身につけて卒業するか
    という**“目的意識”と“姿勢”**です。

行けば安心ではなく、「行ってどう過ごすか」がすべてを左右します。


◆ 学費と時間の投資に見合う価値があるか?

私立文系大学の4年間にかかる学費は、平均で400万円以上
これに生活費を合わせれば、総額は600〜800万円にもなることがあります。

その対価として、何を得るのか。
この問いに明確に答えられないまま進学するのは、もはや「安全な選択」ではありません。


第5章:それでも“大学に行くべき子”の特徴

それでも、大学に進学することが人生を豊かにする子もいます。
では、どんな子が「大学に行くべき」なのでしょうか?


◆ ① 自分で学びを深められる子

大学は「教えてもらう場所」ではなく、「自分で探求する場」です。
与えられた課題に対して、自分で調べ、まとめ、発表し、議論する。

こうした“主体的な学び”を面白いと感じる子には、大学は非常に向いています。


◆ ② 興味のある専門分野を持っている子

「医療に関心がある」「建築に興味がある」「子どもに関わる仕事がしたい」など、具体的な学問領域に興味を持つ子は、大学でその関心を広げ、深めることができます。

目的意識があれば、大学は非常に有意義な学びの場になります。


◆ ③ 就職先や職業に明確な条件がある子

一部の職種(公務員・大企業・研究職など)は、大卒でなければ採用されない条件がついていることがあります。

将来的にそうした道を目指す子にとって、大学進学は必要条件となることもあります。


◆ ④ “人脈づくり”や社会体験を目的にできる子

大学の価値は、講義だけでなく「サークル活動」「ボランティア」「留学」「学生団体」など、幅広い出会いや体験にもあります。

4年間で多くの人と出会い、視野を広げたいと思っている子にとっては、大きな価値があります。

第6章:親が子どもの学歴について考えるための3つの視点

子どもに「高卒でいい」と言うのも、「大学には行きなさい」と言うのも、
どちらも親の価値観が強く影響します。
けれど、本当に大切なのは**“その子の将来にとって何が必要か”**という視点です。

親が学歴に向き合うための、3つの視点を紹介します。


◆ ① 学歴=ゴールではなく「選択肢の広さ」

高卒と大卒では、求人の数・内容・待遇に違いがあります。
とくに、最初のスタート地点(給料や職種)に差が出やすいことは事実です。

一方で、高卒でも大卒以上の収入を得ている人もたくさんいます。
つまり、学歴は「可能性のひとつ」であって、目的そのものではないということです。

「高卒だからダメ」「大卒だから安心」――
そんな単純な構造ではないということを、親がまず理解しておく必要があります。


◆ ② 大切なのは“学ぶ姿勢”を持ち続けられるか

高卒でも、大卒でも、その後の人生で学び続ける人は伸びます
逆に、どれほど偏差値の高い大学を出ても、
「もう勉強は終わり」と学びを止めた人は社会で評価されにくくなります。

学歴ではなく、学び方・働き方に対する姿勢を育てることが、親にできる最大の支援です。


◆ ③ 親自身の「価値観の更新」が必要

親の世代では、「大学=安定」「高卒=現場仕事」という構図があったかもしれません。
しかし今は、大学に行っても非正規雇用、
高卒でもAIや技術職でキャリアを築ける時代です。

親が自分の価値観にこだわることで、
子どもの可能性を狭めてしまうことがある――
この危機感を持って、学歴を“戦略的に考える”柔軟性が求められています。


まとめ:「学歴より“就職力”」の時代をどう生きるか

高卒か大卒か――この問いに正解はありません。
ただし、どちらを選ぶとしても、「その選択をどう活かすか」が何より重要です。

親が「大学に行かせたい」と思うなら、
その理由を明確にし、子どもに目的意識を持たせる必要があります。
逆に、「高卒で働かせたい」と思うなら、
社会で通用するスキルや社会性を、早い段階から意識して育てていく必要があります。

つまり、学歴とは「切符」であり、
その先をどう歩むかは本人の力と、周囲の支援で決まるのです。


【保護者向けメッセージ】

子どもが自分の未来に納得できる進路を歩むためには、
親が“自分の理想”ではなく、“子どもの現実と特性”を見つめる必要があります。
学歴の有無ではなく、どんな力を身につけて社会を生きていくか――
それこそが、親子で本気で向き合うべきテーマではないでしょうか。

保護者・教育者向け子供とのかかわり方