◆ ほんの少しの「まっててね」から、深まる成長のドラマ
おかあさんが出かける間、あさえはちいさいいもうとの「ひとりみまもり」をまかされます。
「まっててね」と言って、少しの間だけ目を離したそのすきに――
妹のあやちゃんが、いなくなってしまいます。
『あさえとちいさいいもうと』は、日常の中のほんのささいな出来事を描きながら、子どもが責任や後悔、不安、そして成長を体験する、静かで深い一冊です。
◆ 「こども同士の関係」を描いた数少ないリアルな絵本
この物語の魅力は、次のような**“心の動き”がとても丁寧に描かれていること**です。
- 「まってて」と言ったあと、妹がいないことに気づいたときの不安
- 「わたしのせいかも」と感じる責任と心の痛み
- そして、妹が見つかったときの安堵と、妹の存在の大きさ
だからこそ、問いかけを交えて読むことで、感情・判断・行動の意味をゆっくり理解し、言葉にすることができます。
◆ 育てられる5つの力
育つ力 | 内容 | あさえとちいさいいもうとでの例 |
---|---|---|
感情理解 | 不安・後悔・安心などの心の動きを知る | 「あさえはどんな気持ちだったと思う?」 |
社会性 | 人をまもる責任・信頼・助けを学ぶ | 「あやちゃんをまもるって、どういうこと?」 |
思考力 | 行動と結果の因果を考える力 | 「どうして“まってて”と言ったのに、いなくなったの?」 |
読解力 | ストーリーの構造を把握する力 | 「なにがあって、どうなったの?」 |
表現力 | 自分の体験や考えをことばにする力 | 「きみなら、あさえのかわりにどうした?」 |
◆ 年齢別『あさえとちいさいいもうと』の質問例
🔸 4〜5歳向け:場面と感情の結びつきをやさしくたどる
日常の延長線上にある物語だからこそ、自分ごととして感情を考えるきっかけになります。
質問例 | ねらい |
---|---|
「あさえは、どこにいったの?」 | 展開の確認 |
「あやちゃんは、どうしていなくなっちゃったの?」 | 原因の理解 |
「あさえは、どう思ったと思う?」 | 感情理解 |
「さいごに、おかあさんがぎゅってしたとき、どんな気持ちだったかな?」 | 安心と関係性の理解 |
🔸ポイント:問いのあとに「そうだったかもね」と共感して返すことで、気持ちのやりとりが生まれます。
🔸 5〜6歳向け:責任・不安・行動の意味を考える
“見守る役目”の重みを、子どもなりに考えられるタイミングです。
質問例 | ねらい |
---|---|
「“まってて”って言うとき、どんな気持ちだったかな?」 | 行動前の気持ち |
「どうして、あやちゃんは歩いていっちゃったの?」 | 他者の視点の理解 |
「あさえは“わるいことした”と思ったのかな?」 | 自己評価の理解 |
「きみが“まかされる立場”になったら、どうする?」 | 自己投影と判断力 |
🔸ポイント:「どう思う?」「きみならどうする?」をていねいに聞くと、考える姿勢が育ちます。
◆ 読み聞かせは、「気持ちを整理する練習」になる
『あさえとちいさいいもうと』を読む子どもは、
あさえの気持ちに寄り添ったり、あやちゃんの行動に驚いたりしながら、
「わかるようで、わからない気持ち」を自分なりに整理しようとします。
そこで「問いかけ」があると、こうなります:
- 「なんでそう思ったんだろう?」
- 「わたしだったら、ちがったかな?」
- 「これって、わるいこと?」
こうした内面の対話こそが、“読む”から“感じる・考える”への成長の一歩になります。
◆ さいごに:「ぎゅっ」とされる安心をことばに
この絵本のラスト、あさえはお母さんに何も言えません。
でも、お母さんに抱きしめられた瞬間に、安心と受容が伝わってきます。
だからこそ、次に読むときは、こんな問いを加えてみてください。
「きみは、“ぎゅっ”としてもらいたくなったとき、どんなときだった?」
「なにも言わなくても、伝わる気持ちってあると思う?」
その一言が、ことばにならない気持ちを少しずつ言語化する力へとつながっていきます。